■ワインの歴史
ワインの歴史は、古代オリエントからヨーロッパ、さらには新世界(アメリカ、オーストラリア大陸と周辺諸国など)へ広がりました。ワインの広がりは、人類の歴史と重なっています。
古代オリエント世界は、地域的には西アジアのメソポタミア(現トルコ南部~イラク)・アナトリア(現トルコ付近)・イラン高原(現イラン北部)からエジプト(地中海南東部付近)・東地中海岸を含み、東はインダス川(イランとインドの間付近)までの範囲をさします。
■ワインの始まり
ブドウの原種は、すでに300万年前には地上に繁茂していたと言われています。糖分をアルコールに分解する酵母は、さらに古く数億年前から存在していましたので、人類はワインを発明したのではなく、発見したと言えます。
文献でもっとも古いのは、メソポタミア文明の頃、今からおよそ6000~7000年前の出来事を書いた「ギルガメッシュ叙事詩」です。大洪水に備えた船を建造したときに水夫にふるまったとされています。エジプト王朝は、今から5100~3500年ほど前に栄えましたが、第一王朝のころから壁画にはワインの圧搾機や壷が描かれています。古代エジプト神話の冥界(めいかい)の王,死と復活の神オシリスが地中海東岸のレバノンのワインに魅せられて広めたと言われています。また、ギリシャには、かの酒神ディオニソス(バッカス)がもたらしたとされています。
これらの言い伝えから、古代、コーカサスに自生したブドウがワインとなって、地中海を東からイタリア・フランス・ドイツ・スペイン・イギリスへと西へ、数千年かけて伝播していった足跡が見られます。神々の時代、ワインは東からもたらされた貴重な産物だったのです。
■ジュリアス・シーザー(ガイウス・ユリウス・カエサル)とワイン
ローマの戦士たちは、戦争で赴くその道の脇に、農作物の種を蒔いたと言われています。それは戦火の元でも食料の確保を怠らなかった彼らの智恵ですが、同時に征服した土地に新しい文明を定着させていったことのたとえでもあります。
史実がベースとなっている有名な「シェークスピア」の戯曲「ジュリアス・シーザー」にも登場する。共和制ローマ(紀元前509年の王政ローマ打倒から紀元前27年の帝政の開始までの期間の古代ローマ帝国)の独裁官「ガイウス・ユリウス・カエサル」ジュリアス・シーザー(BC102~44)の功績はガリア戦記に詳しいところですが、彼の足跡は、現在のワイン王国フランスにワイン造りを伝えた道程だったとも言えます。マルセイユから真北に向かって河を遡ると、コート・デュ・ローヌ、ボージョレー、ブルゴーニュ、アルザス、さらにその西にはシャンパーニュと、現代のフランスワインの偉大なる地方に至ります。シーザーが征服していた地域に重なります。
また、地中海に面したマルセイユから大西洋へのもっとも近道が、ガイヤック地方を経て西に向かうルートです。ガロンヌ河を下り海に出る、その河口がボルドーになります。ここからブリタニアへは海路があり、イギリス人はボルドー産のワインのことを「クラレット」と呼んで親しんでいました。
■キリスト教とワイン
中世のヨーロッパを語るとき、キリスト教の存在はたいへんに大きな背景となります。街はその大小に関わらず教会を中心に放射線状に形作られ、周囲を農耕地や牧草地が囲んでいました。優れた文化、芸術はキリスト教のために捧げられ、神と人との社会が構築されていたのです。そのなかでワインは、キリストの血としてたいへん神聖な、そして貴重なものとして珍重されていきました。
当時の学術の最高峰であった教会、修道院は、こぞってブドウ畑を開墾し、その技術を磨きました。14世紀、ルネッサンスの華が開き、人々の古代ギリシャやローマへの憧憬(しょうけい・どうけい)はいやがおうにも高まります。さらに16世紀から18世紀にかけての華麗なる宮廷文化において、それを彩ったのもまた、良質のワインでした。
当時の王族、貴族、僧院はその技術の粋を集めて、質の高いワインを造り出したのです。そして、17世紀末には、現在のように瓶詰めされてコルクで栓をしたワインが発明されました。
■現代のワイン
現在地球上には、約3万品種ものブドウが栽培されていると言われています。そして驚くべきことに、その90%はワインの原料として使われています。この多くはヨーロッパ種(ヴィティス・ヴィニフェラ)です。しかもそれらは全世界で栽培されているすべての果実の50%に達しています。
16世紀の大航海時代から、ヨーロッパのワインは世界中へと広がりますが、そのなかでもここ数十年の世界のワインの品質の向上には目を見張るものがあります。
実はブドウは、地域性が非常に強い植物で、あちらのブドウをこちらに植樹したからといって簡単に同じものが実をつけるとは限りません。にもかかわらず、土壌、気候など、ブドウにあった土地を選択し、伝統技術と近代技術を駆使して行われる現代のブドウ栽培は、アメリカはもとよりオーストラリアや日本でも、素晴らしい成果を収めてきました。
■主なワイン産地と特徴
多くのボトルには生産国が表記されています。ヨーロッパであるならば、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなど。また、近年人気のオーストラリアやアメリカ、ニュージーランド、日本など。続いて、さらに細かな産地が表記されているものもあります。国や産地によってワインの味わいなどの特色があります。
ワインを選ぶ時、産地をテーマにするのはわかりやすい方法のひとつです。ワインの原料はブドウ、ブドウは果物、果物は農作物ですから、気候風土や土壌の条件が大きく影響します。そしてそれらは、国や地域によってそれぞれ異なります。お好みのワインを産地ごとに探して、ご自分に合ったワインを見つけるのも良いかも知れません。
■フランスワインの産地
ワインを語るうえで、まず外せないのがフランスです。歴史と伝統があり、品質の高い優れたワインが数多く造られています。特に、ボルドー地方とブルゴーニュ地方が2大産地として知られ、スパークリングワインの産地として世界的に有名なシャンパーニュ地方があります。ほかにもドイツに近いアルザス地方、フランス中央部のロワール地方、ローヌ川沿いの南北に広がるローヌ地方、地中海に面するプロヴァンス地方などがあります。地域ごとにワイン造りに適した気候や土壌を備えつつ、AOC(原産地統制呼称法)制度というワインの法律で醸造が管理されており、原産地を名乗ることができます。それゆえに安定した高品質ワイン造りが行なわれています。
■フランスワインのラベルにある「A.O.C.」について
フランスにおける 法律に基づいたワインの産地を示す呼び名で、「A.O.C.」は情報の宝庫です。
フランスワインのラベルに表記されている
「Appellation d’Origine Controlee」や「Appellation ○○○(生産地) Controlee」が該当します。
実は、たくさんの情報を導き出すとっても重要な表示です。
「Appellation d’Origine Controlee」、(頭文字をとって)「A.O.C.」について簡単にご説明します。
フランスにおける法律に基づいたワインの産地を示す呼び名で、「A.O.C.(=アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)」は、日本では通称「エー・オー・シー」と呼ばれることが多く、フランスワインの品質分類である「原産地統制呼称」のことを指します。
2009年からはEUの規定変更により「A.O.P.(Appellation d’Origine Protegee)」と書かれているものもありますが、基本の考え方は「A.O.C.」と同じです。
品質分類により3段階に分かれますが、「固有の特徴をもつ産地に基づくトップカテゴリー」に付与される呼称が「A.O.C.」、または「A.O.P.」です。
その具体例として、
ラベルに「Appellation Chablis Controlee」と記載がある場合、A.O.C. Chablis(※1)の規定を満たし認定を受けたワインであるということがわかります。
(※1)Chablis=シャブリ地区は、フランスのブルゴーニュ地方の北部に位置する有名なワイン産地です。
「Appellation」は、「原産地」の意で、「Controlee」は、「管理された」の意です。
「A.O.C.」を名乗るためには、様々な品質規格基準(産地、品種、収穫量、熟成法、試飲検査、など)をクリアする必要があります。
基準を満たさなければ、「A.O.C.」で規制されている名称で製品を造ったり、販売することは禁じられています。
これら条件のおかげで、記載がなくても、ワインの産地や品種などを判断できるのです。
例えば、先にご紹介した「Appellation Chablis Controlee」からは、
・産地:シャブリ地区(フランスのブルゴーニュ地方の北部)
・品種:シャルドネ(この地区で造る白ワインは単一品種(シャルドネ)のみで醸造)
が読み取れます。
さらに、その産地について詳しく知っていれば、
・土壌:メインは、キンメリジャンと呼ばれる石灰質の土壌(大昔、海底にあった地層)
・気候:年間平均10度前後(果房の成熟期に気温が低いと成熟が進まず酸が高くなる)
ということまで検討がつきます。
その結果、このワインの味わいについて「ミネラル感豊富で爽やかな白ワイン」と
おおよその想像がつくようになるという訳です。
■ボルドー地方
ボルドー地方は、フランス南西部に位置し、大西洋とそこに流れ込むジロンド川の支流に囲まれた地域です。その名は「水のほとり(Au bord de l’eau)」という古語から付いたと言われています。
海洋性気候と呼ばれる海の影響を強く受ける気候で、年間を通して温暖かつ降雨量が多い土地となっており、ワイン用ブドウの栽培地として最適な土地です。ブドウ畑は、ピレネー山脈から流れるガロンヌ川と、中央高地から流れるドルドーニュ川がボルドー市のすぐ北で合流し、ジロンド川となって大西洋に流れ込む、この三つの河川の流域に広がっています。川の上流から下流方向を見た際に右手側の岸を右岸、左手側の岸を左岸と言い、右岸と左岸どちらで造られたかによってボルドーワインの味わいは大きく異なります。恵まれた土壌と環境で生産されるボルドーワインの特徴は、長期熟成が可能であることですが、特に気候と日照時間の条件が良く、完熟したブドウが収穫された年に生産されたワインは「当たり年(グレートヴィンテージ)」と呼ばれ、人気があります。近年では、2015年、2016年、2018年がボルドーにおけるグレートヴィンテージと言われています。
広大な畑の中にシャトー(城)のような醸造所が建つ景色も美しく、ワインのラベルにシャトーをデザインしたものも多くあります。赤ワインの生産量が多く、複数のブドウ品種をブレンドしています。有名な5大シャトーの第1級ワインから第5級まで、シャトーからなるメドック格付けは、世界のワイン選びの指標的存在にもなっています。
・栽培されている主なブドウ品種
ボルドーでは、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワイン、甘口から辛口と様々なタイプのワインが生み出されています。
その大きな特徴はほとんどのワインが数種類のブドウ品種をブレンド(アッサンブラージュ)して造られていることです。
同じくフランスの銘醸地、ブルゴーニュ地方では単一品種で造られるのと対称的です。
アッサンブラージュとは、日本語に置き換えると「調合」、つまりブレンドを意味する言葉ですが、ボルドーのワインは基本的に、いろいろなブドウ品種のワインをブレンドしてバランスをとりながら個性を生み出します。
一方さまざまな品種をブレンドするスタイルは、その年の各ブドウ品種の出来に合わせてブレンドの比率を変えることで、一つの品種への依存を避けることができるという、リスクヘッジの役割も果たすことができます。
これは毎年の気候変動が激しいボルドー地方において、とても重要なことなのです。
カベルネ・ソーヴィニヨン(黒ブドウ品種)
ボルドー原産で赤ワインを代表する王道ブドウ品種。
果粒が小さく、果肉に対して種子が大きく、さらに果皮が黒く厚いブドウなので、豊かなタンニンと深い色調を生みます。また、その豊かなタンニンがワインとなった時に長期熟成を可能にします。
比較的温暖な気候で水はけの良い土地でよく生育するため、ボルドーでは砂利質土壌のメドック地区でカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたワインが造られています。ただ、発芽と成熟が遅いやや晩熟型のブドウのため、収穫の早いメルロやカベルネ・フランとブレンドすることで収穫期のリスクを回避しています。
また、カベルネ・ソーヴィニヨンから造られるワインは非常にはっきりとした個性を持っており、若いうちは特にカシスやブルーベリーのような果実の香りと、ピーマンや杉のような青っぽい香りが特徴的ですが、メルロ等とブレンドし熟成させることで香りや味わいにより複雑性が生まれ、ボリューム感のあるふくよかな味わいとなります。
メルロ(黒ブドウ品種)
メルロはボルドーで最も広い栽培面積を持つブドウ品種で、カベルネ・ソーヴィニヨン同様ボルドーの赤ワインを代表するブドウ品種です。
果皮が薄く果粒が大きいブドウなので、一般的にはタンニンが少なく、ふくよかで若いうちから飲みやすいワインになります。
生育においてはカベルネ・ソーヴィニヨンより冷たい土壌を好むため、粘土質土壌のサン・テミリオンやポムロールなど主にボルドー右岸の地域でメルロ主体のワインが造られています。
カベルネ・ソーヴィニヨンより成熟させるのが容易な上に早熟で多産のため、ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンと混植することでバランスをとっています。
メルロは赤ワインの深い色合いを出すうえで欠かせない存在であり、プラムのようなフルーティな香りとやわらかいタンニン、ロースト香が飲みやすさを演出します。
熟成させるとイチジクのような香りを感じさせる鮮やかな変化もメルロの醍醐味と言えるでしょう。
カベルネ・フラン(黒ブドウ品種)
カベルネ・フランは、房が小さく青みを帯びた黒い果粒で、ブドウの外見はカベルネ・ソーヴィニヨンによく似ていますが、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べるとブドウの発芽、成熟ともに1週間程度早く、涼しい環境下でも完熟させることが容易なブドウです。
カベルネ・フランから造られるワインは、おおむねカベルネ・ソーヴィニヨンから造られるワインよりも色調が薄く、香りも控えめでタンニンも少ないのが特徴です。
よって、カベルネ・ソーヴィニヨンのワインより幾分早く熟成するため、ブレンドすることで飲み頃を調整する役割も果たしています。
ボルドーではメインとして使われることは少ないものの、木苺やすみれの花のような可憐な香りや、滑らかで程良い酸味のある上品な味わいに整えるなど、個性の強い品種同士をブレンドする際の優秀なまとめ役を担っています。
ソーヴィニヨン・ブラン(白ブドウ品種)
ボルドーの辛口ワインでは欠かすことのできない品種です。
ソーヴィニヨン・ブランから造られるワインは一般的に青みがかった淡い黄色で、豊富な酸を持ち、柑橘類の香りとグリーンやハーブのニュアンスを漂わせた清涼感に溢れた味わいとなります。
単体では比較的早めに飲むタイプのワインとして造られることが多いのですが、ボルドーではセミヨンとブレンドすることで、骨格のしっかりとしたワインとなり、特に甘口に仕上げられた場合は長期熟成も可能なワインとなります。
セミヨン(黒ブドウ品種)
セミヨンは中甘口と甘口ワインでは主要品種として、また辛口ワインでは一般的にソーヴィニヨン・ブランを補助する目的でブレンドされます。
セミヨンから造られるワインは熟成に耐え得るしっかりとしたボディになりますが、若いうちはあまり特徴がなく香りも乏しいため、強いアロマと高い酸を持つソーヴィニヨン・ブランとブレンドしてバランスを保っています。
また、ソーヴィニヨン・ブランを使用した辛口白ワインにブレンドすることで、味わいにボディを補う役目も果たしています。
そして、セミヨンと言えばボルドーの世界最高峰の甘口ワイン、ソーテルヌに使用されている品種で、皮が薄く、貴腐菌がつきやすいという特徴があります。
セミヨンは熟成した甘口ワインでその真価を最大限に発揮し、ドライフルーツや蜂蜜など無類の素晴らしいブーケと華やかさをワインに与えます。
代表的な産地
ボルドーはエリアを大きく「右岸」に「左岸」分けることができ、同じボルドー産のワインでもその違いによって味わいやスタイルが異なります。
メドック地区
ジロンド河左岸、ボルドー市の北側位置するボルドーを代表する銘醸地です。
全長120kmのワイン生産地域のうち、ジロンド河口一帯をメドック地区と呼びますが、AOCとしては上流の「オー・メドック」と下流の「メドック」で二つに分けられています。
オー・メドックでは砂利質が強いため、水はけが良く暖かい土壌を好むカベルネ・ソーヴィニヨンが主に栽培されており、メドックでは粘土質が強くなるため、オー・メドックと比べてメルロの栽培比率が高くなっています。
また、オー・メドックは、1855年にナポレオン3世による有名な格付けが行われた地域。
格付けされたシャトーはグラン・クリュを名乗ることを許され、さらにその中で1級から5級までにランク分けされており、「ボルドーの5大シャトー」とは、この地区の格付け1級に属する五つのシャトーのことを指します。
サン・テミリオン地区
ポムロールに隣接するグラーヴ(砂利)エリアと、街の周囲に拡がるプラトー(台地)エリア、二つの土壌を持つのが特徴。
グラーヴエリアでは砂礫質に向いたカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンが多く栽培されており、右岸の中でも独特なスタイルのワインを生産しています。シャトー・シュヴァル・ブランがこのエリアの代表的なワインです。
一方、サン・テミリオンの街周辺の台地では、粘土石灰質土壌から優美な味わいのメルロ主体のワインが造られています。サン・テミリオンを代表するシャトー・オーゾンヌはこちらに属します。
グラーヴ地区
オー・メドックの上流、ガロンヌ川沿い左岸に広がる産地。メドックよりも深い砂礫質の土壌が拡がっているため排水性がさらに良く、雨の多かった年には他の地区に比べて品質が高くなる傾向があります。
ワインはカベルネ・ソーヴィニヨン主体で造られていますが、土壌の違いからオー・メドックと比べると軽やかで芳香性の高いワインが多いです。
5大シャトーの一角シャトー・オー・ブリオンは、この地域にありながらも例外的にメドックの格付けに選ばれたことで知られています。
ペサック・レオニャン地区
ボルドー市の南側に位置するエリア。
低い丘が連なった地形で、砂が少なく砂利が多い土壌であるため、タンニンと酸のしっかりとした芯の強さがありながら、優美な印象も兼ね備えた、長期熟成型のワインが生み出されます。
メドック地区以外から唯一格付けされたシャトー・オー・ブリオンが存在します。
格付
ボルドーのAOCは下から地方名AOC、地区名AOC、村名AOCまでで、ブルゴーニュのように1級や特級などの畑ごとの格付けはありません。
その代わりボルドーには、四つの地区にそれぞれ独自の格付けがあります。
1855年に発表された「メドックの格付け」を始め、ボルドーのワインは歴史的に生産者に対して格付けの実施が行われてきました。メドック、グラーヴ、サン・テミリオン、ソーテルヌ等、地区ごとに独自の格付けが存在し、さまざまな波紋を起こしながらも、ボルドーワインの世界的な知名度の上昇、発展に寄与しています。格付けにより知名度を確立してきたワインが存在する一方で、格付けに認定されていないワインであっても、世界のワインラヴァーを魅了する素晴らしいワインが数多く存在していることも事実です。
メドック格付け
1855年に開催されたパリ万国博覧会の展示品の一つとして、時の皇帝ナポレオン3世の要請を受け、ボルドー商工会議所によって作成されました。
赤ワインと白ワインの二つの格付けが発表されましたが、一般的に1855年の格付けと言えばメドックの赤ワインの格付けを指します。
建前的にはジロンド県内すべてのシャトーを対象としたものですが、作成したのがボルドー商工会議所のため、リブルヌ商工会議所が管轄するドルドーニュ川右岸のサン・テミリオンやポムロールのシャトーは顧みられず、赤ワインの格付けはメドックのシャトーに限定されました。
ただし、唯一の例外として、当時から名声の高かったシャトー・オー・ブリオンがグラーヴから選定されています。なお、格付けは試飲によって決められたものではなく、過去数十年にわたる取引価格をもとに決定されました。
メドックの格付けは第1級から第5級までの5等級あり、1855年4月18日に発表された当初は合計57のシャトーが選ばれました。その後相続による分割や他のシャトーへの吸収などを経て、現在、第1級に5シャトー、第2級に14シャトー、第3級に14シャトー、第4級に10シャトー、第5級に18シャトーの合計61シャトーが格付け表に名を連ねています。
特筆すべきは1855年の制定以来1度だけ見直しが行われ、1973年に第2級のシャトー・ムートン・ロスチャイルドが第1級に昇格したことです。しかし、それ以降見直しは一切行われず、今後も行われる様子はありません。
グラーヴ格付け
1855年の格付けでシャトー・オー・ブリオンを唯一の例外としてグラーヴのワインが選ばれなかったことから、生産者組合の要請に応じ、I.N.A.O.(国立原産地および品質機関)が任命した審査委員会によって作成されました。
メドックの格付け制定から100年近く後の1953年に発表され、1959年に承認されています。
グラーヴの格付けに階級分けはなく、16のシャトー名がワインの色とともに列挙されています。具体的には赤ワインが選出されたのが7シャトー、白ワインが選出されたのが3シャトー、赤ワインと白ワインの両方が選出されたのが6シャトーの合計16シャトーです。
もちろん、メドックの格付けで第1級に選ばれた赤ワインのシャトー・オー・ブリオンもこの格付けに入っています。しかし、白ワインは生産量があまりにも少なくオーナーが辞退したため、格付けに入っていません。
なお、グラーヴの格付けシャトーは全て1987年に制定されたA.O.C.ペサック・レオニャンに属しています。
ソーテルヌ格付け
前述の通り一般的に1855年の格付けと言えばメドックの赤ワインの格付けを指すためあまり知られていませんが、同年のパリ万国博覧会では白ワインも格付けされています。
対象はソーテルヌとバルザック地区の甘口ワインとされました。
等級は三つに分かれており、別格扱いの最高クラスであるプルミエ・クリュ・シュペリュールにシャトー・ディケム、第1級のプルミエ・クリュに11シャトー、第2級のドゥージエム・クリュに15シャトーの合計27シャトーが格付けされています。
サン・テミリオン格付け
グラーヴの格付け同様、1855年のメドックの格付けの約100年後に制定されました。
そして、メドックの格付けが160年以上たった今でも一部の例外を除いてほとんど変わっていないのに対して、生産者主導で行われるサン・テミリオンの格付けは10年ごとに見直しが行われます。これまでに1969年、1986年、1996年、2006年、2012年、2022年の7回にわたって改訂されました。
格付けは第1特別級のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセと特別級のグラン・クリュ・クラッセからなりますが、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセは上級の「A」と下級の「B」に分かれるため、実際には3階級となります。
最高位のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「A」はこれまでシャトー・アンジェリュス、シャトー・オーゾンヌ、シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・パヴィの4シャトーとなっていましたが、2022年の最新の格付けでは辞退・撤退などにより、シャトー・パヴィだけが残る事態になり、同時に、これまでプルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「B」に格付けされていたシャトー・フィジャックが「A」に昇格したため、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「A」に格付けされたシャトーは2つとなりました。
その他、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ「B」が12シャトー、グラン・クリュ・クラッセが71シャトーとなっています。
シャトーを直訳すると「城」ということになりますが、ボルドーの生産者は歴史的に、ワイン生産により富を築いていく中で、ブドウ畑の近くに位置する醸造所に壮麗なお城を建て、ワイン造りを営んだ大規模な生産者も数多くいたことから、生産者自体のことをそのように呼ぶことになったと考えられます。ただ実際には、シャトーと名乗る生産者の全てが豪華なお城を所有しているわけではありません。
「シャトー」は、買い入れたブドウからワインを造るのではなく、生産者が所有する畑で栽培されたブドウから造られたことも示しています。
※よく「赤ワインは常温」と言われますが、室温は赤ワインであってもやや高いため、少し冷やした状態がおすすめです。
ブルゴーニュ地方
ボルドーと並ぶ主要生産地で、パリの南東に位置します。生産量はボルドーに比べると少なく、ブドウ栽培から醸造・瓶詰めまで一貫して行うドメーヌワインと、買い付けたワインを醸造するメゾンワインがあります。ボルドーが「シャトー」で格付けされるのに対し、ブルゴーニュでは「クリマ(畑)」で決められます。道を1本挟んだ畑ちがいで、ワインの価格が格段に異なるのもブルゴーニュならではです。基本的には、赤も白ワインも単一のブドウで醸造し、繊細で香り高いワインが多いのが特徴です。
ブルゴーニュの格付けは、簡単に言うと畑に対する評価です。
比べられるボルドーでは生産者に格付けがされます。例えば、ボルドーワインのシャトー・マルゴーは第一級ですが、このワインを造っている生産者に格付けがつくので、ワインも1つしかありません。
ですが、ブルゴーニュでは、長い年月をかけて別れてきた畑(クリマやリュー・ディ)にいくつもの生産者がワインを造っています。
同じ村の同じ畑でも、生産者が違えば、同じ格付けで同じワイン名でも味わいが異なるワインが多数あることになります。
ブルゴーニュでは家族経営が多いため、現当主(父)の引退後に、子供たちが畑を分割相続することがあります。 そうなると1つの畑がさらに分割されます。例えば3人子供がいる場合、ドメーヌを引き継いだ長男はそのままですが、独立した二男に畑が割当てられ、娘が別のドメーヌに嫁いだ時は相手の家族の畑になったり、さらに細分化することが多々あります。
ここが難しいのですが、ブルゴーニュワインラヴァーにとっては非常に重要になってきます。
より日当たりや水捌け、土壌などの条件のよい畑を受継ぐのかがキーになってきます。
“格付けの種類”
この格付は、特にシャブリ地区、コート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区は しっかり三角形が出来ており、上からグラン・クリュ(特級畑、1.5%、33)、プルミエ・クリュ(1級畑、10%)、コミュナル(村名、37.5%)、レジョナル(地区名、51%)とわかれます。
ボルドーなどでは、地域によって格付けがあり違いもありますが、 ブルゴーニュワインはすべてこの三角形に入り、他の格付けはありません。この三角形はA.O.P(原産地呼称保護ワイン※以前のA.O.C)のみで、この下にI.G.P(地理的表示保護ワイン)、さらにV.d.T(日常的テーブルワイン)があります。
日本に輸入されているブルゴーニュワインは、ほとんどが三角形内のA.O.Pワインです。
ボルドーワインは、それぞれのワインによってラベルが違います。ブルゴーニュワインでは、同じ生産者の格付け違いの場合、記載の字が違うだけで、大きくラベルが変わらないので、見分けがつかない生産者も多数あります。
ブルゴーニュワインを地域名から選ぶ
ブルゴーニュワインと名前をつけるためにはいくつかの約束事がありますが、ブルゴーニュ地域圏の6つの地域で⽣産されたワインでないと、ブルゴーニュワインと名乗ることはできません。地域によってさまざまな味の特徴がありますので、地域名から選ぶということもおすすめです。
爽やかな酸味が特徴的な「シャブリ地区」
シャブリ地区は石灰岩質を多く含んだ土壌が特徴の産地。そのため、ミネラル分が豊富で、さらに爽やかな酸味が感じられる辛口の白ワインで知られています。白ワインがお好きな方や、特においしい白ワインを飲みたい方は、シャブリ地区のワインがおすすめです。なお、シャブリは白ワインだけで、4つの等級に分かれます。位が高いものから、特級の「シャブリ・グラン・クリュ」、続いて「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ」、シャルドネ種以外にアリゴテ種も使用できる「プティ・シャブリ」の順番です。
ロマネ・コンティを生み出した「コート・ド・ニュイ地区」
フランスの東部、黄金の丘とも呼ばれるコート・ドール県の北部に位置するのが、コート・ド・ニュイ地区です。辛口の赤ワインの産地としても有名で、誰もが1度は聞いたことがあるであろう「ロマネ・コンティ」や「シャンベルタン」などを生み出しました。
長期熟成タイプが多いため、赤ワインの中でもしっかりとした骨格が感じられる味わいが好みの人におすすめの産地です。ジュヴレ シャンベルタンは村名および村名ワインであり、シャンベルタンはシャンベルタン村の中の一級畑のワインということになります。「ロマネ・コンティ」とはフランス、ブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村にあある特級格付けの銘醸畑の名前。およびそこのブドウからつくられる赤ワインを指します。ロマネ・コンティが特別なのはモノポール、単独所有畑である点です。
ブルゴーニュワインは畑名+生産者名、ブルゴーニュでは一つの畑をいくつもの生産者が分割所有しているのが普通です。有名な特級畑として、例えば「ナポレオンが愛したワイン」として有名な「シャンベルタン」という畑があります。シャンベルタンは分割所有されています。栽培農家がブドウを販売して、別の生産者の名前でワインをつくることもあります。だから何十種類もの「シャンベルタン」というワインが存在します。
それに対して「ロマネ・コンティ」の畑はモノポール、単独所有されています。ブルゴーニュワインは畑名と生産者名をセットにしないと1種類のワインに定まらないのです。
ロマネ・コンティの生産者は「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ Domaine de la Romanee Conti」といいます。名前にも「ロマネ・コンティ」と入っているのです。通常は「ロマネ・コンティ」といえばそのワインを指します。しかし生産者名のことを言っているのかもしれない。ヴィンテージやサイズの違いはあるものの、「ロマネ・コンティ」といえば1種類だけ。もしもロマネ・コンティの種類についての話が出たとすると、それはDRCがつくる他のワインという意味だと推測されます。
ワイン通に愛好者の多い「コート・ド・ボーヌ地区」
コート・ド・ボーヌ地区は、赤ワイン、白ワインも両方ともに良作が多いことで知られています。良質なブドウを産する畑が多く、特に有名なのはムルソーと呼ばれる地域。特級畑に近い1級畑でとれるシャルドネから作られる白ワインは、コクとフルーティな香りが特徴で、フランスの三大白ワインにも選ばれるほど。
飛びぬけて有名な地区ではありませんが、フルーティな白ワインが好きな人にはぜひ一度飲んでみてほしい産地です。
ブルゴーニュワインを気軽に楽しみたいなら「コート・シャロネーズ地区」
気軽に楽しめるブルゴーニュワインを探しているなら、コート・シャロネーズ地区のワインもおすすめです。白ワインは南国風味の芳醇な果実感が特徴で、赤ワインは軽快な味わいで知られています。特級畑はないため、価格も手頃なものが多く、気軽に楽しむことができるブルゴーニュワインが豊富に揃っていますよ。
フルーティな香りが特徴の「マコネー地区」
岩石質の土壌が多いことで知られているのがマコネー地区。その土壌を生かしたフレッシュなガメイ種と呼ばれるブドウを使用した赤ワインや、フローラルで薫り高い白ワインなどを産出しています。特にマコン村付近では、爽やかでバランスのとれた白ワインを産出し、コストパフォーマンスが高いので、普段使いにぴったりですよ。
日本で知名度が高い「ボジョレー地区」
毎年11月になるとニュースなどでも話題になるボジョレー・ヌーボーを産むのがボジョレー地区です。ガメイ種と呼ばれるブドウを使用することが約束事になっており、基本的に早飲みタイプのワインが多く作られます。濃い色合いや野いちごのような味わいが特徴で、赤ワイン、白ワイン、ロゼなども人気。手軽に飲める高品質なワインを数多く産出する地区です。ボジョレー・ヌーボーの解禁時期を中心に購入しやすい値段と軽やかな味わいのワインが多く販売されるため、ブルゴーニュワインを気軽に試してみたい人におすすめです。
シャンパーニュ地方
「シャンパン(シャンパーニュ)」で有名です。フランス北東部に位置します。この地区で栽培されたブドウを使用し、法律による厳しい条件のもとで醸造された発泡性ワインだけが「シャンパーニュ」と名乗ることが許されます。村ごとの単位での格付けが行われ、「モンターニュ・ド・ランス」をはじめ、 4地区のブドウ栽培地から白、赤、ロゼの3種が造られていますが、白ブドウのみで造られたものをブラン・ド・ブラン、黒ブドウのみで醸造したものをブラン・ド・ノワールと呼びます。味わいは、辛口の“ブリュット”から甘口の“ドゥー”まで、様々な味わいが楽しめます。
フランス そのほかの産地
そのほかにも国の広域にわたってワインが造られています。
フランスの北部から順にご紹介すると、
アルザス地方
主に白ワインを醸造するドイツ国境付近です。
ロワール地方
フランス最大の大河で国の中央部を流れるロワール川流域です。
ローヌ地方
「太陽のワイン」と称されるワインを生み出すローヌ川流域です。
プロヴァンス地方
フランス南部です。ロゼワインの産地として知られます。
ラングドック・ルーション地方
フランス最南部です。生産量が最も多いとされています。
南西地方
黒ワインと呼ばれるカオールなどの個性的なワインを醸造しています。
■イタリアワインの産地
気候風土、地理的にもブドウ栽培に適した理想の条件を備えています。ワイン生産量をフランスと競い合い、消費量では世界一です。20州すべてでワインを生産しており、ブドウ品種は300種以上。味わいも生産地によって個性豊かで、イタリアワインは「多様性」が魅力のひとつです。2015年5月から制定された新たなワイン法で管理されており、厳格な順から「保護原産地呼称ワイン(通称D.O.P.)」、「保護地理表示ワイン(通称I.G.P.)」、地理表示のない「ヴィーノ」と続きます。またワイン法制定以前にあったDOCG、DOC、IGTなどの表示も認められています。
トスカーナ地方
イタリア中部に位置します。ここでは高品質な赤ワインが多く造られ、「キャンティ」、「キャンティ・クラシコ」、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」、「ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ」など、世界的に有名なワインが並びます。また、法律にとらわれない自由な発想で生み出されたスタイルの「スーパータスカン」と呼ばれるワインもあり、イタリアワインの最先端を走り続ける産地ともいえます。
ピエモンテ地方
「山の麓」を意味します。その名の通り、アルプス山脈の南側に美しいブドウ畑が広がっています。トスカーナ地方と並ぶ高級ワイン産地として知られ、銘醸ワインの宝庫ともいわれています。特に「ワインの王であり、王のワイン」と称えられる赤ワイン「バローロ」は世界的名声を誇っています。基本的にピエモンテでは、単一品種によるワインが多く醸造されているのが特徴です。
イタリア そのほかの産地
北イタリアでは、北東部のトレンティーノ・アルト・アディジェ州が知られます。またフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州では、冷涼な気候を生かしたワインを醸造しています。ヴェネト地方では、赤ワインの「アマローネ」、白ワインでは「ソアヴェ」、発泡性ワインでは「プロセッコ」などが有名です。北西部のロンバルディア州では、フランスのシャンパーニュに並ぶ発泡性ワイン「フランチャコルタ」が醸造されています。
■スペインワインの産地
ブドウの栽培面積が世界一とされています。ほぼ国内全域でワインが生産されています。特に、人気の「カヴァ」と呼ばれる発泡性ワインは、北部地中海側のカタルーニャ地方で多く造られています。また赤ワインはマドリード近くのリオハや内陸部のリベラ・デル・ドゥエロ、カタルーニャ海岸地域のプリオラートが有名です。南部のアンダルシア地方は酒精強化ワイン「シェリー」の生産地として知られます。
■ ドイツワインの産地
北方気候のドイツでは、フレッシュで果実味の豊かなものが多く醸造されています。白ワインに適した伝統的な産地ですが、甘めのワインをはじめ食中酒としておすすめの“辛口(トロッケン)”や“中辛口(ハルプトロッケン)”が生産されています。多くのブドウ品種が栽培されていますが、ブレンドすることなく単一品種で醸造するのが特徴です。
■ アメリカワインの産地
ヨーロッパ以外で、日本人によく知られ親しまれているワインを生産しているのがアメリカです。中でもカリフォルニア州が、全米の大部分を占めています。とりわけサンフランシスコ近郊のナパヴァレー地区の高品質な赤ワインが有名ですが、近年では冷涼な気候のソノマ地区の白ワインや、南部のパソロブレス地区のワインも人気が高まっています。
■オーストラリアワインの産地
ヨーロッパよりも広い面積を持つことから、テロワール(土壌・気候など)が豊かであるという特徴があります。同じブドウ品種でも、個性の異なる魅力的なワインが醸造されています。特に夏は暑く、冬は雨の多い南オーストラリア州はブドウ栽培の好適地で、オーストラリア最大の生産量を誇ります。またニュー・サウス・ウェールズ州や、パースのスワン・ヴァレーを中心に質の高いワインが造られています。品種は黒ブドウではシラーズ、白ブドウではシャルドネが代表的です。
■チリワインの産地
日本の国別ワイン輸入量の第1位です。南北に細長くブドウ栽培地域は約1,400kmに広がっており、多様なワインが造られています。食事と一緒に気軽に楽しめるデイリーワインのイメージが強いチリワインですが、一方でカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどの国際品種を用いたプレミアムワインも注目されています。
■日本ワインの産地
国産ブドウを国内で醸造したものを「日本ワイン」と呼びます。一方「国産ワイン」と呼ばれるものは、輸入したブドウを原料に含むワインを言います。北は北海道から南は沖縄までブドウが栽培され、その土地ごとの個性が醸されます。有名な産地の筆頭は山梨で、日本固有種の甲州ブドウ、マスカット・ベリーAといった品種を中心に美味しいワインが醸造されています。そのほか長野や北海道、山形でもワイン造りが広がっています。いずれのワインも日本料理とよく調和し、日本ならではの食とのマリアージュが楽しめます。
■ワインの分類
醸造方法の違いにより大きく四つに分類されます。
①通常の一般的なワイン(スティルワイン)
炭酸ガスを含まないワインです。
②スパークリングワイン(発泡性ワイン)
炭酸ガスを含むワインです。
「シャンパン(シャンパーニュ)」は、フランスのシャンパーニュ地方で作られているスパークリングワインの一種です。
③フレーヴァード・ワイン(混成ワイン)
赤ワインに、一口大またはスライスした果物と甘味料を入れたスペインのサングリアや、イタリア・フランス・スペインのヴェルモット(ベルモット、ニガヨモギ)のように、ワインにフルーツやスパイスなどの他の材料を加えて風味を添えたワインです。
※但し、ヴェルモットやサングリアの多くは、日本の酒税法上は果実酒ではなく、甘味果実酒に分類されます。分類方法により、混成ワインや酒精強化ワインに分類される場合があります。
※ちなみに、無免許での自家製サングリアの製造・販売は、酒税法違反です。
④フォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)
醸造工程中にブランデー等のアルコールを添加して、ワイン全体のアルコール分を高め、味にコクを持たせ保存性を高めたワインです。
四大酒精強化ワインや果実酒に薬草等を浸漬させたヴェルモット(ベルモット)が有名です。分類方法により、混成ワインや酒精強化ワインに分類される場合があります。
日本の酒税法では、甘味果実酒に分類されます。「フォーティファイドワイン(アルコール強化ワイン)の多くや、薬草、香料、色素などを原料としたアロマタイズドワイン(フレーバードワイン、混成ワイン)は、酒税法上、果実酒ではなく甘味果実酒に分類されます。国税庁は、“フォーティファイドワインのうち、わが国では酒税法により、一部、果実酒に分類されるものもあります。”としており、また、違いが分かりにくいとされているのも事実です。
■四大酒精強化ワイン
①シェリー(スペイン)
シェリー酒とは、スペイン・アンダルシア地方のヘレス周辺で造られる酒精強化ワインです。一言にシェリー酒といっても、辛口のフィノから極甘口のペドロ・ヒメネスまで、非常に多様なタイプがあり「シェリー酒の味わいはコレ!」と一括りにできない難しさがあります。そのせいか、日本ではシェリー「酒」と呼ばれることが多く、独自のカテゴリーと認識されがちですが、実は立派なワインです。ボルドーやブルゴーニュと同じようにシェリーと呼ばれるワイン(産地)なのです。呼称統制があり、この地方で作られたブドウを用い、この場所で製造されたワインのみがシェリーの名を許されます。
②マデイラワイン(ポルトガル)
モロッコの西600キロの海上にあるマデイラ島(ポルトガル領)で作られます。発酵させたブドウ果汁を樽詰めし、樽ごと乾燥炉に入れて約50度で3-6ヶ月間加熱処理(エストファ)した上でブランデーを加えて作ります。
マデイラワインには下記のタイプがあります。
・セルシアル (辛口)
・ヴェルデーリョ (中辛口)
・ブアル(中甘口)
・マルムジー(暗褐色をした甘口)
③ポートワイン(ポルトガル)
ポルトー・ワインともいいます。日本に初めてもたらされたワインとされており、その出荷港がポルト港であったためにこの名が付きました。ポルトガル北部のドウロ川沿岸が産地です。原料となるブドウの品種は多彩で、全29種がポートワインの推奨品種となっています。発酵途中にブランデーを加えるため甘口となります。オーストラリアや南アフリカでもポート・タイプのワインが作られています。ポートワインには以下のタイプがあります。
・ルビー・ポート
若い甘口で熟成期間が2-3年と短く、果実香が豊か。もっとも一般的なタイプ。
・ホワイト・ポート
白ブドウを原料とする。甘口から辛口まである。
・トウニー・ポート
黄褐色をしている。熟成期間は10年程度。安価なものから高級品まで。
・ヴィンテージ・ポート
作柄のよい年に収穫されたブドウだけで作られる高級品。さらに澱(おり、沈んだカス)を丁寧に除いたレイト・ボトルド・ヴィンテージ・ポートもあります。
サントリーの初のヒット商品ともいわれる「赤玉スイートワイン」は、1907年(明治40年)に赤玉ポートワインとして発売されましたが、“ポートワイン”と表記されていることをポルトガル政府より抗議され、マドリッド協定に従い、1973年(昭和48年)に現在の名称である「赤玉スイートワイン」に改称されました。
④マルサラ(イタリア):シチリア島が産地。1773年、イギリスの商人ジョン・ウッドハウスがマルサラでマデイラワインをまねて作ったのが最初とされています。熟成度合によって以下の3タイプがあります。
・フィーネ : 4ヶ月以上熟成。甘口。
・スペリオーレ : 2年以上熟成。辛口が主体。
・ヴェルジーネ : 5年以上熟成。辛口。
■ワインの色による分類
ワインは色の種類から大きく四つに分類されます。
①赤ワイン
黒葡萄の果汁と果皮と種が混ざった状態でアルコール発酵させます。
②白ワイン
白葡萄の果汁だけをアルコール発酵させます。
③ロゼワイン
黒葡萄で作る白ワインで、果皮は最初に絞る時だけで、圧搾して得られた果汁のみをアルコール発酵させます。
④オレンジワイン
白葡萄で作る赤ワインで、赤ワインのように果汁と果皮や種を一緒にアルコール発酵させます。
■ワインのボディによる分類
ボディ(Body)とは「身体」という意味です。ワインの味を表現する言葉として「男性的」「女性的」と表現されることが多いことから、ワインの味をボディと表現するようになったとされます。
ワインの味は「フルボディ」「ミディアムボディ」「ライトボディ」の3種類があり、渋みや苦味、重厚感などに応じて分類されます。また、ボディで分けられるのは赤ワインのみです。
ちなみに、白ワインやロゼの場合は「極甘口」「甘口」「やや甘口」「やや辛口」「辛口」「ごく辛口」という分類がなされることが多いです。
フルボディ
フルボディは味が濃く、渋みや苦味が強めの重厚なワインのことを指します。口当たりは軽くても余韻が長く感じられるもの、徐々に余韻が強く感じられるようなワインもフルボディに分類されます。あえて日本語で表現するなら「重たいワイン」です。香りは強く複雑で、色も濃く、いかにも濃厚そうな印象があります。
赤ワインは黒ぶどうの果実を皮や種子ごと潰して発酵させます。タンニンが多く含まれるため、白ワインと比べて渋みや苦味が感じられます。長い熟成期間を経て、それらがさらに濃縮され、フルボディのワインが出来上がります。また、ぶどう果実に含まれている糖分が熟成させることでアルコールに変化するため、フルボディのワインはアルコール度数が高いのも特徴です。
ワインの味が重厚なため、料理に関してもこってりとしていて濃いめの味付けのもの、具体的にはビーフステーキやビーフシチューなどによく合います。
じっくりと熟成させた高級なワインはフルボディが多いですが、すべての高級ワインがフルボディとは限りません。たとえばブルゴーニュワインはピノ・ノワールというぶどう品種が原料です。ポリフェノールの含有量が他の黒ぶどう種よりも少ないため、ブルゴーニュワインは次に紹介するミディアムボディに分類されることもあります。
ミディアム
ミディアムとは「中間の」という意味。その名の通りフルボディとライトボディの真ん中にあたります。フルボディよりは味が濃くないけど、ライトボディよりはしっかりとした味わいが感じられます。程よい渋みと苦味で、比較的初心者の方でも受け入れやすい、「万人向け」のボディです。
トマトソースを使った料理や中華料理などと愛称がよく、サバの味噌煮や鶏の照焼など和食ともよく合います。
ピノ・ノワールやメルロ、テンプラリーニョなど、幅広いぶどう種から醸造されます。基本的に製造工程はフルボディと同様ですが、熟成期間があまり長くないため、フルボディと比較するとアルコール度数が低く、渋みや苦味が抑えられています。
ライトボディ
3つのボディの中では一番あっさりとしている、まさに「軽めのワイン」です。苦味や渋味は少なく、ぶどう本来のフレッシュな味わいが感じられます。香りについてもフルボディのような複雑でふくよかなアロマではなく、フレッシュな印象があります。
ワイン特有の苦味や渋味が苦手な方、ワイン初心者の方にも飲みやすい赤ワインです。あっさり、さっぱりとしているのでカレーをはじめとしたエスニック料理、和食とも相性ぴったりです。
熟成期間は極めて短く、いちばん有名なのは「ボージョレ・ヌーボー」。その年に収穫されたぶどうを原料として使っています。
先ほど高級ワイン≠フルボディということを解説しましたが、逆もしかり。ライトボディだから安価・品質が低いというわけではありません。
■ワインのボディの見分け方
実は「これはフルボディ」「これはミディアム」というような明確な基準はありません。あくまで生産者や流通業者がアルコール度数やぶどう品種、熟成期間や味などを総合的に判断して決めています。
味の感じ方は人それぞれ。ミディアムボディで物足りないと感じる人もいれば、重すぎると感じる人もいます。ボディはワイン選びの参考になりますが、あくまで「目安」と捉えておいてください。
まずはライトボディからはじめて、物足りないと思ったらミディアムボディに、慣れてきたらフルボディというように、段階的に選んでいくと、ご自身の好みに合ったワインが見つかることでしょう。
■ブドウの品種による分類
ワインのブドウ品種は、ヴィティス・ヴィニフェラ種という種に属していて、その土地にあったブドウが栽培され、どの品種も独特の個性を持っています。そして、なんと世界には10000もの品種があります。食用のブドウは果皮が薄く、種もあまりない実の部分がジューシーなものが好まれますが、ワイン用のブドウは、色素とアロマを含む果皮が厚く、赤ワイン用はタンニンを多く含む種が多いブドウが必要です。世界でワイン用に使われているブドウの品種は、赤ワイン用、白ワイン用合わせて約50種類ほどのブドウ品種があり、とくに、国際品種として挙げられるのが、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、シラーシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブラン、リースリング、セミヨンが、ヨーロッパ系の古典的な品種が世界のさまざまな産地で栽培されています。
また、スペインで主に栽培されているテンプラニーリョ、イタリアで主に栽培されているサンジョベーゼ、ネッビオーロ、ピノ・グリ、ドイツなどの冷涼な産地を中心に栽培されているゲヴュルツトラミネール、その他、ピノタージュ、ミュスカ、ムールヴェードル、ヴィオニエなども、ニューワールドを中心に栽培を拡大しています。
赤ワインに使われる主なブドウ品種
■カベルネ・ソーヴィニヨン
世界最大の栽培面積を誇る黒ブドウ品種です。
原産地であるフランス・ボルドー地方では帝王ともいえる黒ブドウ品種で、ボルドーの5大シャトーと呼ばれる1級格付けシャトーのワインもほとんどがこのカベルネ・ソーヴィニヨン主体で造られます。
アメリカでは、オーパスワン、スクリーミング・イーグルといったカルトワインに使われ、イタリアではサッシカイアなどのスーパータスカンに使われる世界でも偉大なワインを生み出す品種です。
小さな粒で果肉がほとんどないくらい厚めの皮と大きな種があり、皮が厚い分ワインにすると色が濃くタンニンが豊富で、しっかりと骨格のある味わいに仕上がります。
カシスやブラックベリーなどの黒系の果実を思わせる凝縮した果実味と、タバコ、杉などの複雑なブーケを開花させ、酸もタンニンも強めで、ガッチリとした構造を感じる味わいです。
■ピノ・ノワール
フランスで、ボルドーに並ぶワインの銘醸地ブルゴーニュで造られる赤ワインのほとんどが、このピノ・ノワールから造られています。
果皮が薄く、早熟なブドウで、病気にも弱いことから、他の品種に比べて栽培も醸造も非常に難しいとされ、かつては「ブルゴーニュ以外では栽培できない」と言われていましたが、近年では世界中で栽培される国際品種の1つとなり、アメリカのオレゴン州のピノ・ノワールが注目を集めています。
イチゴやチェリーのような香りに、酸とタンニンのバランスが良く、エレガントで官能的な味わいのワインになるのが特徴ですが、産地によってさまざまな味わいに変化するのもこの品種の面白いところ。
ブルゴーニュのピノ・ノワールと言えば、その希少性から100万円を超える値がつくロマネ・コンティが有名です。
■メルロ
カベルネ・ソーヴィニヨンと栽培面積でトップの座を争うポピュラーな黒ブドウ品種の1つ。
フランスの中でも銘醸地として名高いのがボルドー地方で、右岸地域のポムロルやサン・テミリオンで造られるメルロからは、世界最高峰のワインが生み出されています。
プラムやブラックチェリーのような香りがします。
カベルネ・ソーヴィニヨンと比べると、タンニンや酸味が穏やかで、やさしい味わいが特徴です。
メルロと言えば、世界的ワイン評論家のロバート・パーカー氏から「神話の象徴」とも評されたワイン、シャトー・ペトリュスが有名です。
ボルドー右岸のポムロル地区に位置するシャトー・ペトリュスは、格付けもない右岸のポムロル地区で造られるワインですが、わずか100年の間に、5大シャトーを凌ぐ高値で取引されるようになった伝説的ワイン。
■シラー
フランスのローヌ地方では、力強く品のあるそして、特にスパイシーな香りが特徴のワインを造ります。
またフランスではローヌ地方以外でも、南仏一帯の南部では、ブレンド用のブドウ品種として重要とされており、ワインにしっかりとした骨格と味わい、熟成能力を与える品種としても使用されています。
ボルドーのカベルネ・ソーヴィニョン、ブルゴーニュのピノ・ノワールと並び、長期熟成タイプの偉大なブドウ品種の一つです。
フランス以外で有名な産地ではオーストラリアです。
オーストラリアでは「シラーズ」と呼ばれ、果実味の豊富でパワフルなアルコール度数の高い凝縮した味わいの赤ワインを造ります。
他にも、南米チリやアルゼンチン、またアメリカやニュージーランド、南アフリカでも広く造られています。
白ワインに使われる主なブドウ品種
■シャルドネ
白ブドウ界のトップスターで、造られるワインは白ワインの女王と称され、ブルゴーニュ地方で偉大な辛口白ワインを生み出す品種です。
世界で幅広く栽培されており、地域、テロワール、造り手によって七変化する品種でもあり、冷涼な土地ではミネラル感豊かなキリっとしたものになり、暖かい土地では、熟れた果実のようなコクのある仕上がりになります。
リンゴ、洋ナシ、アーモンド、バター、ヘーゼルナッツ、バニラ、トーストなどのアロマがあります。
シャルドネから造られる代表的なワインは、フランス・ブルゴーニュ地方のモンラッシェ、シャブリ、ムルソーです。
■ソーヴィニヨン・ブラン
フランスのロワール地方のサンセールとボルドー地方で有名になり、ニュージーランド、イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、オーストリアのシュタイアーマルク州が主な産地です。
グレープフルーツのような柑橘系にハーブを加えたようなさわやかな香りが特徴で、冷涼な土地だと辛口で酸味がきつくなり、暖かい土地ではトロピカルフルーツのような香りになります。
とくに、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランは、1980年代ワイン・コンペティションで最優秀賞をとったのをきっかけに世界的に評価を受ける様になりました。
中でも南島のマールボローでは、ニュージーランド全体の67%のブドウ畑があり国内最大の栽培面積を有しています。
そして、そのうちの78%でソーヴィニヨン・ブランが栽培されており、ソーヴィニヨン・ブランの世界的産地として有名です。
ここで造られるソーヴィニヨン・ブランは、パッションフルーツやグアバなどのトロピカルフルーツの風味があり、ニュージーランドならではの素晴らしいソーヴィニヨン・ブランが味わえます。
■リースリング
リースリングの栽培面積の半分はドイツが占めており、モーゼルとラインガウがリースリングの2大産地として有名です。
その他、フランス・アルザス地方、オーストリア、オーストラリア、アメリカ・ワシントン州とニューヨーク州などの比較的冷涼な産地で栽培されています。
リースリングは、栽培される環境が限られ気難しい品種ですが、高級白ワインを生み出す高貴白品種としても知られています。
またテロワールの影響を大きく受けるため、産地によってその味わいはかなり異なり、青りんごや洋ナシ、トロピカルフルーツなどのアロマを持つフルーティーなものから、鉱物のようなアロマをもつミネラルを強く感じるものまでさまざまです。
■「甘口ワイン(デザートワイン)」と「辛口ワイン」
発酵によってぶどう由来の糖分がアルコールに変わりますが、この糖分がアルコールに変わる程度によって、辛口、甘口が決まります。糖分をほとんどアルコールに変えてしまえば辛口のワインになり、糖分の一部しかアルコールに変わっていないうちに発酵を止めてしまえば、糖分が十分残った甘口のワインになります。そのため、辛口の方がアルコールが高くなり、甘口の方はアルコールが低くなる傾向にあります。また、甘口ワインの造り方にはいくつかあります。ワインの「辛口」とは、「甘味が控えめ」「甘味がほとんどない」という意味で用いられています。 香辛料の辛さや、酸味だけを感じるタイプのワインを指しているのではありません。 一口に辛口といっても、非常に硬くシャープなものから、飲んだあとにわずかに甘味を感じるような豊かなコクを伴ったものまでいろいろです。
●貴腐ワイン
フランス・ボルドーのソーテルヌやドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼが有名です。ある特定の環境下で、ぶどうの果皮に一種のカビが育成し、ぶどうから水分を奪うことで、ぶどうの成分が濃縮されます。このぶどうから得られる糖度の高い果汁を醸造します。貴腐ワインは、ウイスキーの熟成樽(ソーテルヌカスクを使用しているウイスキーも多い)にも関係がありますので、あとで触れます。
●アイスワイン
カナダやドイツが有名。冬場、外気温が下がり、木になった状態で凍結したぶどうをすぐに搾ります。そうして得た通常より糖度の高い果汁を醸造します。ドイツ、カナダ、オーストリアの特定の地域で造られたもののみ「アイスワイン」と名乗ることが許可されています。寒い地域でブドウを栽培し、真冬になるまでブドウを収穫せずじっくりと熟すのを待ち、そのうち氷点下の寒さで凍ったブドウを手摘みします。太陽の出る日中は氷が溶けるので、なんと夜明けに収穫します。
●干しぶどうワイン(ストローワイン)
フランス・ジュラの藁(わら)ワインやイタリアのパシートが有名。ぶどうを収穫後、風通しの良いところに一定期間置いて干しぶどう状にし、それから得られる糖度の高い果汁を醸造します。収穫したブドウを藁(straw)の上で乾かしてから造られるためこのように呼ばれるようになりました。現在は藁の上で干したブドウからだけでなく、吊るして干したブドウなどから造られたワインもストローワインと呼びます。乾燥して水分が蒸散した干しブドウは糖度が高いため、醸造すると通常のワインよりもアルコール度数が1〜3%程度高くなり、赤ワインの場合でも白ワインの場合でも味わいは非常に濃厚で、長期熟成にも耐えうるワインとなります。主な生産地はフランス、イタリア、スペイン、オーストラリアです。
●遅摘みワイン
●発酵停止ワイン(レイトハーヴェスト)
スペインの甘口のシェリーやポルトガルのポートワインなど酒精強化ワインが有名です。発酵の途中、目的の糖度に達した段階で発酵を停止し、糖分を残します。一般的な収穫時期よりも遅く収穫する事。もしくは、そのブドウから出来た甘口のワイン。収穫を遅らせる事で、ブドウの水分が減少し、糖度が上がります。どれ位遅く摘めば、この名称を名乗れるかは、決まっていないようです。このほか、辛口ワインに後から糖分を足したものもあります。
■貴腐ワイン
“腐ブドウ”という極めて糖度の高いブドウを原料に造られた極甘口ワインで、デザートワインともいわれます。果実酒に分類されます。デザートワインには、ほかに“アイスワイン”、“ストローワイン(干しブドウワイン)”、“レイトハーヴェスト(遅摘みワイン)”を含めて4つの種類があります。アロマティックな甘口微発砲ワインでる「モスカート・ダスティ」や酒精強化ワインも含まれる場合もあります。
この“貴腐ブドウ”は、もとは一般的な辛口ワインに使用されているブドウと同じものなのですが、貴腐菌によって糖度を高くしたブドウです。その秘密は、ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)というブドウの果皮に感染するカビの一種にあります。この菌がブドウの果皮に付着すると、菌糸が侵入して果皮の組織が破壊されます。その後、日照が多く乾燥した天候が続くことでブドウ中の水分が蒸発していき、収穫時には糖分などのエキスが凝縮した貴腐ブドウへと変貌を遂げるのです。こうして糖度が高くなった貴腐ブドウを原料としているため、貴腐ワインは極甘口に仕上がります。
■貴腐ブドウができる条件
貴腐ブドウは、前述した通りボトリティス・シネレア菌が作用し糖度が高くなったブドウのことですが、この菌に感染すれば簡単にできるわけではありません。そもそも、ボトリティス・シネレア菌は果実や花弁、葉、茎などを腐敗させてしまう灰色カビ病として知られている菌です。つまり、本来ブドウにとっては有害な菌ですが、特定の条件を満たした場合にのみブドウを貴腐化させているのです。その条件は「朝に霧が発生して菌の生育に都合の良い温度や湿度状態になっていること」、「日中は晴天で乾燥し、水分の蒸発が進行すること」が重要だと言われています。さらに、これらの条件で少なくとも1ヶ月以上の日数が必要と言われており、この間に貴腐化するのに不都合な天候変化が起こると、ただの腐敗になってしまうことも多々あるようです。このように貴腐ブドウの生育条件は厳しく、自然環境に依存する部分が多いため、特定の産地やヴィンテージ(ここでは、“特定の年に作られた良いもの”の意)にしか造られません。例えば、世界最高峰の貴腐ワインを生み出すシャトー・ディケムは、完璧さを維持するために不作のヴィンテージには貴腐ワインを生産しないことでも知られています。シャトーでは通常6週間以上かけて約200人もの摘み手が、ヴィンテージによって平均5~6回に分けて完全に熟したブドウのみを収穫。そうして厳しく選別されたブドウから造られたワインでも、樽熟成の段階でディケムとして世に出すにふさわしくないと判断されたものは生産量を減らしてでも容赦なく除きます。 間違いなくフランス貴腐ワインの最高峰といえます。このワインはその長命さでも愛好家を驚かせてきました。世界で最も影響力のあるワイン評論家ロバート・パーカー氏によると“飲み頃はヴィンテージによって100年も続く”とされ、その熟成ポテンシャルは計り知れないものがあります。また、シャトーでは辛口のディケム「Y(イグレック)」も生産しています。甘口ワインと同じ畑のブドウから生産されており、生産量は年間約1万本と希少なワインです。
■貴腐ワインが高価な理由
貴腐ワインは、他の甘口ワインに比べて高価な甘口ワインとして知られています。その理由は、前述したとおり、原料となる貴腐ブドウの生育が自然条件に依存するということもありますが、収穫や醸造も他のワインに比べ、何倍も手間をかけて行われているからです。特に収穫は、厳選して摘み取られ(場合によっては、同じ房の中でも部分的に収穫を何度も繰り返すことも)、選果も徹底して行われます。さらに、収穫したブドウは干しブドウ状になっているため、得られる果汁は極わずか。です。前述のシャトー・ディケムでは、1本のブドウ樹からグラス1杯分のワインしか造らないと言われています。醸造中も、果汁糖度が非常に高く発酵がうまく進まないこともあるので気が抜けません。このような手間がかかるため貴腐ワインは比較的高価になっています。
■世界三大貴腐ワイン
①ソーテルヌ(フランス)
②トロッケンベーレンアウスレーゼ(ドイツ)
③トカイ・アスー(ハンガリー)
■甘味果実酒(フルーツワイン)
日本における酒税法上の分類上、甘味を持つように製造された混成酒を指します。欧米では果実酒と同カテゴリーに分類され、広義のフルーツワインに含まれます。ハーブなどを加えたベルモットのように、必ずしも甘いとは限りません。
フルーツワインは、広義にはブドウ以外の様々な原料成分から作られた酒全般を指す。果実、花、およびハーブから採取されたフレーバーを添加されたものを含む。分類によってはビール以外の醸造酒全般を含むように解釈されることもある。欧米などでは、歴史的な見地から(既に固有の酒として認知されているという意味で)、ミード(蜂蜜酒)、シードル(リンゴ酒)、ペリー(洋ナシ酒)はフルーツワインの定義から除外される場合がある[1][2]。
日本のウイスキー創業の黎明期を支えた日本の甘味果実酒
赤玉スイートワイン(サントリー)
1907年(明治40年)4月に赤玉ポートワインとして販売開始され、1973年(昭和48年)に赤玉スイートワインに改称した。
ニッカアップルワイン(ニッカウヰスキー)
同社初のウイスキーより2年早く、1938年(昭和13年)に販売開始された。リンゴを原料に作られたワインとブランデーを混合している。その後1960年にアサヒビールと提携した際、同社のシードル事業を引き受け1972年にニッカシードルを発売している。
蜂印香竄葡萄酒(はちじるしこうざんぶどうしゅ)
1881年(明治14年)に販売開始された商品。神谷傳兵衛のみかはや銘酒店によって製造され、近藤利兵衛の近藤商店によって販売された。輸入葡萄酒にハチミツや漢方薬を混和し、独特の甘味を持たせた。現在はハチブドー酒として合同酒精で製造・販売されている。